ふじみクリニック

一陽来復-「待つことの意味」-

2023.12.24


[狭山市 笹井 2023年12月]

今年(2023年)の冬至は12月22日の金曜でした。
冬至とは1年間で太陽高度がもっとも低くなる日です。北半球では,日の出から日没までの日照時間が一番短くなる日でもあります。今年は初冬の時節に入っても,例年より暖かい日が続いていましたが,今週(12月第3週)は零下の日もあり,朝の通勤時間には身がすくむ寒さを実感するようになりました。

冬至には「一陽来復」という呼称もあります。
一陽来復とは,「冬が終わって春が来ること」を意味しており,ここから,「悪いことがしばらく続いた後に良い巡りあわせが訪れる」という意味が派生しています。

この言葉は,森羅万象(世にあるあらゆる事物や現象)を陽と陰の二つのカテゴリに分類する易[陰陽思想]に端を発しています。陽と陰とは互いに対立する属性を持った二つの「気」であり,万物の生成消滅といった変化はこの二気によって起こるとされます。一陽来復の「一陽」とは,「陽の気」のことであり,「来復」とは去ったものが再び帰ってくることを意味するわけです。

旧暦でも冬至は11月であり,現在と同様,太陽高度が最も低い日とされていましたが,今も昔も冬至の日の近辺が寒さのピークであるわけではありません。本格の寒い時期(大寒:1月後半~2月初旬)を迎える前に,寒くても「これから少しずつ日差しは長くなってゆく」ことを言祝ぎ,「もうひと踏ん張り」とわが身に言い聞かせる意味があったのでしょう。一陽来復の類語には,「苦尽甘来」とか「捲土重来」という言葉もあります。

多少ニュアンスは異なりますが,これらの言葉には,「時が経てばつらいことが終わり,きっと幸運に恵まれる日が来る」といった共通の意味が含まれています。けれども,このような言い方には,何の根拠もない,せいぜい気休めにしかならないと反発したくなる人もいるでしょう。もう少し能動的な言い方としては,12世紀の中国南宋初期の儒学者胡寅(こ いん)による,「人事を尽くして天命を待つ」という言葉が有名です。

どちらが自分にしっくり馴染むかは,その人の生き方,思想やその時置かれている状況によって異なるでしょう。

けれども「一陽来復」,「人事天命」いずれの言葉にも「待つ」という意味が含まれています。人々の移動手段が高速化(移動時間は短縮化)し,インターネットやスマートフォンの普及によって,私たちはずいぶん「待たなくてもよい」社会に生きるようになりました。

「待たなくてよい」交通手段や機材の発達は,便利であると同時に,私たちを「待てなくなる」人に変えつつあるようにも感じます。ラインメールで「既読」になっていてもすぐに返信がないと,受け取り手が自分を拒絶したと思いがちだったり,企業の社員評価のインターバルが小刻みになって,短期決戦型社員ばかり優遇されたり。

どうしてよいかわからない状況の中で,決断することを放棄するのではなく,一日待ってみる。一晩眠った後自分の心に残っている考えをおさらいしてみる。気になった人からの返事が来ないのを,嫌われたと即断するのではなく,焦れながらでも判断を保留して待つ。

そういえば,もう一つ俚諺を思い出しました。
「待てば海路の日和あり」

それでは,みなさん,どうぞよいお年をお迎えください。