ふじみクリニック

これから世界はいったい

2023.10.23


[2023/10/13 ハナミズキの赤い実]

ようやく長く暑い夏が終わり,澄み切った空と涼やかな風を愉しめる季節が訪れました。ほっと一息つくのもつかの間,テレビやラジオからは,またしても硝煙のにおい立ちこめる凄惨なニュースが流れてきています。

清瀬駅からまっすぐ延びるけやき通りの所々に置かれたスチール製のベンチに,例のお二人が座って話しています。二人とも眉をひそめて,いつになく曇った表情のようです。

白髪老人
(以下「白」)
いい季節になったね。
つるりん老人
(以下「つる」)
うん,こんなふうに日向のベンチはあったかいし,散歩して多少汗ばんでも,木陰に入れば爽やかな風に慰められる。
コロナの方も第9波とか言われてたけど,そのピークも過ぎたようだね。
つる ああようやくね。いまやインフル真っ盛りらしいけどね。
だけどさ,世界の方はまた忙しくなってきたね。
つる イスラエルとパレスチナのことだね。
ニュースや報道番組からの情報しかないけどさ,今回に限って言えば,イスラム組織のハマスの側が拳を振り上げたんだよね。人質まで取ったっていうじゃないか。
つる そうらしいけど,イスラエルの反撃の仕方もただならない規模だっていうからね。ガザ地区には200万人以上の住民がいて,すべてがハマスの組織員や賛同者というわけでもないらしいのに,空爆だけでなく,戦車で壁を越えて,地上戦もものすごい勢いらしい。まあこうなるとイスラエルの戦力の方が圧倒的なんだろうけど。
ハマスの方だってこうなることは,わかっていたんだろうけどね。
つる そうかもしれない。その後の情勢を見ると,今回先に仕掛けたのはハマス側のはずなのに,イスラエルやアメリカへの批判も少なくないから,そういう政治的影響も計算していたんだろうね。
たくさんの人が死んだり傷ついたりしている悲惨さを見て見ぬふりしているのか,その裏で誰かほくそ笑んでいる奴がいるのかもしれないって考えると,もう悲しいやら悔しいやら,いったい誰が,何が正しいのやら。
こういうこと話すのには,歴史の勉強きちんとしないといけないんだろうね。まあすぐには無理だから,手っ取り早く,比較的信頼度が高いって言われているネットニュース見るとさ,こんなふうに書いてある。イギリスのBBCニュースだけどね。

― 中東でパレスチナと呼ばれる地域は長年,オスマン帝国が支配していた。第1次世界大戦でこのオスマン帝国が敗れると,パレスチナはイギリスが支配するようになった。
この土地には当時,ユダヤ人が少数派として,アラブ人が多数派として暮らしていた。ほかに,さらに少数の民族集団もいた。
ユダヤ人の「ナショナル・ホーム(民族的郷土)」をパレスチナに作るするよう,国際社会がイギリスにその役割を託したのを機に,ユダヤ人とアラブ人の緊張は高まった。
これは1917年の「バルフォア宣言」に端を発している。当時のアーサー・バルフォア英外相は,イギリスに住むユダヤ人の団体に対する書簡で,「パレスチナにおけるナショナル・ホームの設立」に賛成し,約束したのだった。
この宣言をもとにイギリスはパレスチナ統治を開始。イギリス委任統治領パレスチナは1922年設立の国際連盟で承認された。
ユダヤ人にとってパレスチナは先祖の土地だった。しかしパレスチナのアラブ人も,ここは自分たちの土地だと主張し,ユダヤ人の国をパレスチナに作ることに反対した。
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-67123651

もっと詳しく沢山書いてあるけど,とりあえずこのくらいにしておこうか。
つる おれもよく理解しているわけじゃないけど,エルサレムという都市はユダヤ教,キリスト教だけでなく,イスラム教の聖地でもあるんだよね。
第二次世界大戦後の1947年,できたばかりの国際連合は,総会でパレスチナを分割してアラブ人とユダヤ人の国をそれぞれ作り,エルサレムはそれとは別の国際都市にするという決議案を可決した。ユダヤ人はこの決議を受け入れたが,アラブ側は拒否して,結局この決議は実施されずに終わった。
つる 宗教戦争? 領土問題?
よくわからないけど,どっちの要素もあるんだろうね。
バルフォア宣言に力を得て,ユダヤ人はこの地にどんどん入ってきた。1948年にイギリスが調整役?を放棄して撤退したら,早速イスラエルは建国を宣言したということだ。
つる それからアラブの人々とユダヤの人々は,ずっと喧嘩しているというわけか。パレスチナの人(アラブ人)からすれば,勝手に入ってきて,おれたちの国作るから出ていけと言われたらそりゃ怒るよね。
イスラエルの人(ユダヤ人)からすれば,「勝手に」なんかじゃないということだ。ユダヤの人々はローマ時代に生地を追われてから世界中に離散して,各地で迫害され偏見の目で見られてきた重い歴史を負っている。ドイツのナチスによる大規模な迫害こそ有名だけど,それだけじゃない。16世紀末に発表されたシェークスピアの「ヴェニスの商人」(『強欲なユダヤ商人』シャイロックがこっぴどくやり込められて,あげくにキリスト教に改宗させられる)なんか,今ごろ公刊したら偏見と名誉棄損のかどで,ひどい罰を食らうだろう。
1922年オスマン帝国が滅び,第二次世界大戦が終わってからイギリスが撤退した後,あの地域の統治主体や国境などが曖昧化したことを,ユダヤの人々は千載一遇のチャンスと見たんだろうね。
つる 違った宗教を信仰する人々でも,一緒に国を作るって発想はなかったのかな。
うん。それができたら本当によかったんだろうけど。数百年以上の確執があって,宗教上の聖地も重なっていて,生活習慣や価値観も異なっていたら,おいそれとは妥協できないだろう。
つる 憎しみが憎しみを生む。
あ~あ,なんとかならないのかな。
つる ウクライナとロシアの方も,一向に停戦のめどは立っていなさそうだし。
世界中,あっちもこっちもボロボロ。
つる うん。
おれたちのこの国だって安穏としていられないかも。
つる たしかに,軍備増強のかけ声も日増しに強くなってるみたいだし。
やだな。
つる やだね。
でも,万一攻められたら守らなきゃ,自身や家族を守るためには腕力も蓄えておかなければならない,とか主張されたら,かんたんには反論できない。
第二次大戦後,日本が80年も戦争しないでこれたっていうのは,奇跡的なことかもしれない。
つる 日本はもう決してほかの国や民族を攻撃なんかしないって,よその国の人々に心底わかってもらうにはどうしたらいいんだろう。
日本だけの問題じゃないけれど,相手より自分の方がちょっとでも多くを取りたい,優位に立ちたい,みたいな欲望をすべての人が捨てられない限りは無理かもしれない。
つる 軍備増強ばかり言ってないで,外交や文化交流にもっと力入れてもらいたいよね。担当者は精いっぱいやってますと言うだろうけど。
地球の土地も資源も有限なんだから,公平に分けないと。
つる でも,石油とか,金属とか,資源のありかは偏っている。気候風土も違うから,取れる作物の種類や量も違う。
そうだね。たくさん持っている裕福な国は,そうでない国に分けてあげられたらいいんだろうけど。
つる 資源や技術をシェアするってことはたしかに必要だよね。
それはその通りなんだけど・・・だれかオレより収入の少ない友だちがオレに金貸してくれって言ってきたとしたら,気前よくはいよって渡せる自信はないかも・・・
たしかにね。もっとも日本の所得税は累進課税方式だから,収入の高い人はある程度は社会に還元してるとは言えるだろうけど。
つる 難しいなあ。悟りの境地にはなかなか立てないね。
「悟りの境地」って仏教かい。そういえば,聖書には「右の頬を打たれたら左の頬を差し出せ」っていう言葉があったよね。あれは非暴力の教えかな。
つる それには異説があるらしいけどね。
ところで「目には目を,歯には歯を」というのは,イスラムのハムラビ法典だっけ。
博学だね。でもそれってさ,聖書にもあるらしいよ。
ちょっと待ってね・・・(スマフォ検索)
ほら,旧約聖書の「出エジプト記」に,「命には命,目には目,歯には歯,手には手・・・」とあるようだ。レビ記にも同じようなことが書いてあるから,ユダヤ教でも同害報復の考えはあるということだ。
つる エンドレス報復合戦。千年の昔にどっちが先に仕掛けたなんてことはだれも確かめられないのに,恨みや憎悪だけは世代を超えて受け継がれていくわけだ。
・・・めちゃくちゃ好意的に捉えれば,やられたこと以上の復讐はだめだよ,と限界を設定していると言えなくもない。
つる ・・・(スマフォ検索)仏典にこんな文句もある。
「怨みに,怨みをもってせば,ついにもって休息を得べからず。忍を行ずれば怨みをやむことを得ん。これを如来の法と名づく。(法句経)」
復讐に関する規定だけでなくて,たぶんどんな宗教でも,今つるさんが調べたように,暴力は原則禁止で,何かされたとしても,相手が反省すれば,許しあう(恩赦の)精神が大事だって,どこかに必ず書いてあるんだろうね。
つる そうだろうね。
結局,人間というものは,奪い合ったり報復しあったりということをやめられないからこそ,宗教が生まれて,様々の「教え」を作ったんだろうね。
う~ん。おれもそう思うけど,そんなふうに言うと,無神論者の野暮な宗教解釈と言われるかもね。
つる たしかに,キリスト教やイスラム教みたいな一神教の信仰篤い人からすれば,「宗教は人間が作った」なんて言ったら,たちまち地獄行きとされちゃうんだろうね。
むずかしいね。
つる むずかしいなあ。
同じ人間どうしが傷つけあうの,ほんとになんとかならないかなあ。
つる キリストもアッラーの神も何もしてくれないんだったら,おれたち人間が,自分たちで何とかしなきゃいけないんだろうね。